近年,大量のゲノムデータを分析することで,さまざまな形質の遺伝的基盤が明らかにされてきた.哺乳類ではモデル動物を中心として研究が進められてきたが,イヌやイエネコといった愛玩動物やニホンジカなどの野生動物での研究例は少なく,特に量的形質の遺伝的関与については多くが未解明である.
申請者は,ゲノムワイド関連解析などのバイオインフォマティクス技術を駆使してイヌやイエネコなどの伴侶動物の行動や毛色,病気の原因となる遺伝子やその多様性を明らかにするとともに,遺伝解析の基盤情報である参照ゲノム配列を構築してきた.また,イエネコの遺伝学的知見を,同じネコ科で絶滅危惧種であるツシマヤマネコに応用し,多様性や疾患への関与を調べた.現在,環境省などの支援のもと,ゲノム情報を用いてさらに詳細に解析を行い,飼育下個体の遺伝情報を考慮した最適な交配計画や,本種の飼育個体群の維持に貢献している.これらの研究成果は,哺乳類における多様性の一端を明らかにするとともに,飼育繁殖や保全へ応用が期待できるため社会的インパクトも大きく,哺乳類学の発展に貢献していくことが期待される.
着実に研究業績を上げており,すでに35本の国際誌論文を公表しており,特にここ5年では25本の論文を公表している.学会では,Mammal Studyや哺乳類科学誌に複数の論文が掲載されており,また編集に関しても査読をおこなってきた.大会では若手向けのものも含めて多くの自由集会を企画するなど,学会の発展に貢献してきた.加えて,アウトリーチ活動も積極的に行なっており,日本の哺乳類学の社会還元にも寄与している.