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大舘智志 氏

 大舘氏は,トガリネズミ等の真無盲腸類を主な対象として,その生態や進化に関して多様な視点から国際的に評価の高い研究成果を挙げられてきた.大舘氏の研究内容は多彩であるが,主たる関心は真無盲腸類の群集形成史,生物地理学的成り立ちにある.そのため,群集生態学,形態学,分子系統学的手法にもとづく研究が業績の中心となるが,大舘氏はひとつの研究分野に留まることなく,古生物学,天然有機化学,ウィルス学など,対象とする動物群の全体像を理解するために貪欲に他分野との連携を進め,多くの創造的な研究を行ってきた.また,ロシア,韓国,台湾,東南アジア,イラン,マダガスカル,アメリカ,キューバなどの研究者らと広範な国際共同研究を推進されていることも特筆に値する.その共同研究を通して,真無盲腸類の生物地理学的成り立ちに関して多くの新知見を明らかにした功績は大きく,国際的にも高い評価を受けている.

 大舘氏の研究成果は多岐にわたるが,特に日本や東アジアにおける真無盲腸類動物相の成立過程に関する研究において大きな足跡を残された.東アジアに分布するトガリネズミ類の系統および地理的分布の変遷を分子系統学および古生物学的手法を用いて整理し,現在北海道に生息するバイカルトガリネズミと本州,四国,佐渡ヶ島に分布するシントウトガリネズミとは分子系統的に明瞭に分離されること,北海道産バイカルトガリネズミはユーラシア大陸および樺太個体群とは系統的に大きく異なること,中期更新世にはバイカルトガリネズミが本州最北端にまで分布していたことを明らかにした.また,ジネズミ類の系統地理学的研究では,北海道と済州島のニホンジネズミは縄文時代以降の日本本土からの移入種であること,琉球列島のジャコウネズミは縄文時代以降に中国南部・ベトナム周辺からの移入種である可能性を示し,これらの動物種の分布に人間活動が強く影響していることを明らかにした.大舘氏はこうした成果の多くをMammal Studyをはじめとする国際誌に発表し,日本のみならず世界の哺乳類学研究,とくに生物地理学的研究の発展に大きな貢献を果たしている.

 大舘氏の哺乳類学への貢献は,普及・教育活動においても顕著である.大学教員として多くの学生の指導に尽力してきただけでなく,国際共同研究の推進を通じて若手研究者に国際交流の機会を提供していることは,日本の哺乳類学研究の国際化にとって重要な働きであると評価できる.日本哺乳類学会においては,和文誌および英文誌編集委員としての経歴が10年以上に及び,とくに2018年から2020年には「哺乳類科学」編集委員長として,豊富なアイデアを活かして会誌の充実に努められてきた.そして,筆頭編集者兼著者としてThe Wild Mammals of Japan(第1版2008年,第2版2015年)の出版に貢献されたことを特記する.この書籍は日本の哺乳類全般について学術的に信頼できる英語で書かれた初めての本であり,日本の哺乳類学研究を世界に発信する上で非常に重要な働きを担っている.この出版に当たっては,大舘氏は筆頭編集者として終始イニシアティブをとられてきた.大舘氏の献身的な働きがなければWMJは実現しなかった可能性もあり,その哺乳類学発展への貢献は際立ったものである.

 大舘氏は,上記のように,研究,教育,研究成果の普及活動,国際連携,そして学会活動のあらゆる面において,哺乳類学の発展に顕著な貢献を果たしている.

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