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理事長のごあいさつ

 日本哺乳類学会は,1923年に創立された前駆組織である‘日本哺乳動物学会’から数えると間もなく創立100周年を迎えます。哺乳類学の学術的な発展を担い,そして次世代の哺乳類学の担い手を育成することが本学会の大きな役割です。哺乳類学とは一体何でしょうか?哺乳類という対象の特徴を形態学・解剖学・遺伝学・系統学・生理学・行動学・生態学等の様々な生物学的な視点から詳らかにし,また,それらの知見に基づいて,哺乳類およびその生息環境をも含めた管理・保全を試みる学術分野です(人・家畜・愛玩動物・実験動物も哺乳類ですが,本学会では,主に野生動物および動物園動物等が研究・調査の対象とされています)。
 哺乳類の一種である人が他種の哺乳類に興味を抱くのは自然な本能であると私は思います。文明を手にする以前,漁労採集を生業としていたヒトにとって,他種の哺乳類をよく知ることはおそらく重要だったと思われます。例えば,トラをよく知ることでその捕食から免れ,マンモスをよく知ることでその捕食に成功したことが容易に想像できます。有史前のお話はさておき,現在,哺乳類に少しでも興味を持たれている方には,その自然な好奇心をぜひ大切にして頂きたいと思います。皆様がふと感じた疑問や小さな発見が,最後には寄り集まって大きな哺乳類学の知のうねりへと発展します。本学会はまさにそのための場として機能しています。また,近年野生哺乳類は大きな社会問題となっています。クマ・シカ・イノシシ・カモシカ・サル等による農作物への被害が深刻化していますが,本学会においてもこれらの対策が議論されています。同時に,外来種問題,希少種の保全等も本学会の重要な検討課題となっています。哺乳類に関する社会的な問題やニーズを的確に捉え,その対策を議論するための場としても本学会は機能を果たしています。
 哺乳類学の発展のためには,形態学・解剖学・遺伝学・系統学・生理学・行動学・生態学等の基礎科学とリスク管理学・保全学等の応用科学の両輪がバランスよく回転することが重要です。基礎研究から得られた着実なデータに基づいて管理や保全の明確なプランが成り立ちます。また,管理や保全によって環境が維持されることにより,基礎研究を継続出来る状況が保たれます。本学会では,この両輪が,常に力強く回転されており,未来へ向かって着実な前進が為されているものと私は確信しています。会員の皆様,そして哺乳類に少しでも興味を抱かれている皆様には,是非とも本学会へ御支援を賜りたく存じます。日本哺乳類学会を,そして世界中に生息する野生哺乳類達を今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

日本哺乳類学会理事長
押田 龍夫

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