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Ohdachi et al., (2019)

 本論文では,日本列島に棲息するニホンジネズミCrocidura dsinezumiの個体群成立史を解明すべく,国内107地点から採集した計191個体を用いて,ミトコンドリアDNAのチトクロムb遺伝子領域およびコントロール領域,ならびに核のApoB遺伝子領域の塩基配列を決定し,系統地理学的解析を行った.その結果,ニホンジネズミ個体群はミトコンドリアDNAの塩基配列から東日本クレードと西日本クレードに大別された.これらの境界は本州中央部に位置しており,重複する地域は認められなかった.また核のApoB遺伝子からは,Type A,G,Rのタイプが得られ,Type AとGはホモ接合であったのに対し,Type Rはヘテロ接合であった.Type Aは主に東北地方から中部地方にType GとRは中部地方以西に多く分布していた.またこれらの分子時計による推定から,東日本クレードと西日本クレード間の分化は,日本列島の本土と大陸が地理的に隔離された10〜15万年前より先んじて生じたことが示唆された.また北海道産個体群の一部は近年,本州東北部より移入されたと考えられたが,一部の個体は自然分布の可能性も考えられた.さらに韓国済州島の個体群についても,近年九州から導入されたものと結論づけられた.
 本論文は,先行研究で示唆されていたニホンジネズミの一部の個体群に対する人為分布の可能性を視野に入れながら,本種の分布域を網羅した多くの地点からの精力的なサンプリングを行い,精度の高い系統地理学的解析をもとに本種の複雑な個体群成立の背景を明らかにした.また,地域ごとの分化年代や他種との比較による東西分化の類似性についても考察しており,系統地理学的研究としての評価は非常に高いと考えられた.ほとんどの推薦者が本論文に投票した結果を鑑み,本論文は日本哺乳類学会論文賞に相応しい論文であると判断した.

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