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Kozakai et al., (2017)

 多くの哺乳類では,メスが出生地周辺で一生を過ごすfemale-biased natal philopatryである.この場合,メスは住み慣れた地域にいることで餌資源分布を熟知していることと,母系血縁者が空間的に近接することで繁殖と生残に有利となる.こうしたfemale philopatryの利点についてのこれまでの研究では,群をつくる哺乳類が対象であった.
 本論文は,栃木県に生息するツキノワグマのメスを対象に,site fidelityと,異なる餌資源量のもとで母系血縁が空間利用に与える影響を明らかにしようとしたものである.site fidelityについては,2003-2014年にかけて12頭にGPS首輪を装着し,行動圏を調べた.餌資源量については,2006-2013年にかけてミズナラ堅果の数を測定した.母系血縁については,2003-2011年にかけて捕獲された合計54頭のサンプルから抽出されたDNAをもとに解析された.その結果,おおむねsite fidelityは高く,また,母系血縁者同士が非血縁者同士に比べ,activity centerが近かった.食物利用可能性が低い年の秋は,どの個体もactivity centerをずらす一方で,冬眠前には従来の行動圏に戻ることが明らかになった.本研究の新規性として,1)単独性の大型哺乳類において,Site fidelityの高さと母系血縁者が空間的に近接することを初めて同時に明らかにした.2)性成熟後も血縁個体同士が近接して行動圏を構えるfemale philopatryがあることが分かった.3)食物の乏しい秋に行動圏を大きくシフトさせることは報告されていたが,「家系の空間」ともいえる地域からもシフトさせることが新たに発見された.以上の3点が挙げられる.データ量については,長期にわたって得られており,大型哺乳類としては十分過ぎるともいえるデータ量であり,頑強性が高いことも評価できる.論文自体もわかりやすくまとめられている.したがって,日本哺乳類学会論文賞にふさわしい論文であると判断した.

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