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Namba and Ohdachi (2016)

 土壌生態系は複雑であるため,捕食者のトップダウン効果は一般的に検出が難しいと言われている.本論文は,土壌生態系の高次の捕食者であるオオアシトガリネズミのトップダウン効果を,エンクロージャーを用いて,実験的に明らかにしようとしたものである.実験では,本種在不在の実験区画を作り,2006~2008年の3年間にわたり,それぞれ無脊椎動物の種同定と密度推定,及びリター重量及び分解速度の測定を行った.その結果,本種が存在する実験区画では,ワラジムシ類,クモ類,ミミズ類が有意に減少し,大型のトビムシ類とムカデ類が有意に増加することが明らかとなった.一方で,リター重量及び分解速度からは本種の影響は見られなかった.著者らは,本種が,ワラジムシ類,クモ類,ミミズ類を餌としたことがこれらの種の減少の原因であり,大型のトビムシ類の増加は,捕食者であるクモ類の減少により説明できると結論付けた.つまり,捕食者により,土壌生態系における無脊椎動物の群集構造が変化することを明らかにした.ムカデ類の増加の理由は不明としているが,本種の嗜好性が関与した可能性を挙げている.以上,本論文は,複雑な生態系を対象に,巧みにコントロールした実験系を構築し,捕食者のトップダウン効果を示した数少ない論文である.論文は論理的に構成され,文章表現もわかりやすい.したがって,日本哺乳類学会論文賞にふさわしい論文であると判断した.

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